●はじめに
「ホームランを打てるスイングが良いスイングである」

「ホームランは、練習方法さえ押さえてしまえば誰でも打てる」

 ホームランを打てるスイングであればおのずと確実性・長打力も上がる。そして、ホームランを打てるスイングは練習方法さえ知っていれば誰にでも習得できる。

 


 では、ホームランを打てるスイングとは、つまるところどういうスイングか?

 確実性と長打力を両立できるスイングとは、どういうスイングなのか?

 


 一言で表すと、ホームランを量産できる&確実性と長打力を両立することは、

「バットの芯が、投球のラインと一致するようなスイング軌道の採用」

によって可能になる。なお、ここでいう投球ラインとの一致は「真横から見たとき」の話である。

 


 本マニュアルでは、なぜこのスイングが優れているかという理屈の話と、このスイングを習得するための練習法を簡単に説明する。

 

 

 

●「コンパクトに上から叩く最短距離のスイング」じゃ打てない理由

「コンパクトに上から叩く最短距離のスイング」とは、いわゆる日本で従来行われてきたスイングのことを表したものだ。その基本的な考え方は以下の通り。

 肩を開かない、腰を開かない、インパクトのときにリストを返す、コンパクトに振る、上から叩く、構えたところから最短距離でバットを出す、上からダウンスイングで叩いて打球にバックスピンをかける、肩のラインは地面と平行を保つ…など
 しかし、実際はこれを忠実にやればやるほど打てなくなってしまう…ということはあまり知られていない。

 以下、なぜ従来のいわゆる「日本式」のスイングが間違っているか、そしてその代わりにどのような打ち方を採用すれば良いのかを、簡潔に示す。

 


●なぜ「上からコンパクトに最短距離で叩く」では打てないのか? 5つの明確な理由

 

 なぜ、「日本型のスイング=上からコンパクトに最短距離で叩く打法」が間違っているのか?

 その理由は主に5つある。

 


①ミートポイントの前後幅が狭くなるので、速い球に当たりにくい

 

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②ミートポイントが投手寄り(前捌き)になるので、速い球に間に合わない

 

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③上から叩くと、ボールとバットがこすれるように当たるので、打球速度が下がりゴロが増える

 

④上から叩くと、ボールとバットがこすれるように当たるので、ストレートに負ける。具体的には力のないポップフライが増え、ボテボテのゴロが増える

 

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…そもそも、ピッチャーが投げてくるボールというのは、「約5-10°ほど上から下に落ちてくる」のである。どんなに速球のスピードがある投手であっても、浮き上がると言われるほどノビがある投手であっても、である。

 直感的に考えて、「上から下に来るボール」に対して「上から下にバットを振り下ろす」のはどう考えてもおかしいと思わないだろうか。

 どうせ打つなら、上から下に来るボールに対しては「下から上」で迎え打ってやることである。ボールとバットが真正面からぶつかり合うので、打球速度が飛躍的に上がる。どんなに速いストレートでも、どんなに非力な打者でも、軌道に入れさえすれば打者側の勝ちである。

 この「軌道に入れる」打ち方でボールの中心よりも上を叩いた場合、ゴロは「トップスピンがかかって、打球速度と球足が速い、捕りづらいゴロ」になる。ボールのど真ん中を叩いた場合は、痛烈なライナーになる。ボールの中心より約6-7mm下を叩けば簡単にスタンドインする。

 とにかく、「軌道に入れるスイングだと打球速度が圧倒的に高くなる」「打球速度が上がると飛距離も飛躍的に伸びる」「打球速度が上がるほど、野手に捕球される確率は下がる」のだ。

 


⑤直感とは逆で、「最短距離が一番早い」わけではない。上から叩く最短距離のスイングは、人体の構造からして明らかにおかしいのでスピードが出ない!

直感的には左の「直線」が一番早く降下できそうだが、実際は右の曲線を降りてくる球のほうが早く最下点まで到達する。「最短距離=最速ではない」という一つの例である。

 

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●「バットをボールの軌道に入れる打ち方」だと打てる理由
①ミートポイントの幅が広くなるので、速いストレートにも遅い球にも合う。

 

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②ボールとバットが「正面衝突=真っ正面からまともにぶつかる」ので、打球速度が上がり良い当たりのライナーが増え、長打も増える。ゴロにしても、内野手のエラー率が高くなる、トップスピンの球足が速いゴロになる

 

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③ボールとバットが正面衝突する&ボールの衝撃に強い形ができるので、非力な選手であってもストレートに負けない。

 

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④人間がバットを一番楽に強く素早く振れる形である

以下のように順々に考えてみると納得できるだろう。

・ストライクゾーンは「肩よりも下」にある
・だから、ストライクゾーンに来るボールを打つには、ある程度肩のライン=肩が回転する角度をホームベース側に傾けて打つ必要がある


・「肩の回転する角度をホームベース側に傾けないと打てない」証拠は以下の通り。肩だけでなく、バット・目線も傾いている。肩を水平に回して打っている打者なんて一人もいない。「肩を水平に回せ」は間違い

 

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・「肩が水平に回転しているのに、バットだけを肩の下にあるストライクゾーンを通過させようとする=上から最短距離で叩く」と、かならず手打ちになる。身体の力が使えないスイングになってしまう。

…「最短距離でコンパクトに上から叩け」の致命的な欠陥はそこにある。「日本人打者は非力だから、最短距離でコンパクトに上から叩け!」と言いながら、「非力な打者には絶対にできないスイング」を推奨している…という大きな矛盾に気付けていない!

 とにかく、「最短距離でコンパクトに上から叩け」のスイングだと、
①ミートポイントの前後幅が狭くなってしまうのでミート率はかえって下がる。
②ストレートの球威に押されてしまう
③力のないポップフライとボテボテのゴロが多くなる
④とにかく打球速度が遅く、飛距離も出ない
というデメリットだらけ。

「<肩が回転する角度>と<骨盤が回転する角度>と<バットの軌道>と<目線のライン>が、ある程度平行かつ、ホームベース側に斜めに傾いている」じゃないと、身体の力のない打者はまず打てない!

 逆に、この4つのラインさえ揃えてしまえば、センスに優れない非力な打者でも強豪校の投手のストレートをスタンドに放り込める! ということ。

 

 

●ここまでのまとめ●

●「コンパクトに上から叩く最短距離のスイング」じゃ打てない理由
①ミートポイントの前後の幅が狭くなるので、速い球に当たりにくい
②ミートポイントが投手寄り(前捌き)になるので、速い球に間に合わない
③上から叩くと、ボールとバットがこすれるように当たるので、打球速度が下がりゴロが増える
④上から叩くと、ボールとバットがこすれるように当たるので、ストレートに負ける。具体的には力のないポップフライが増え、ボテボテのゴロが増える
⑤実は、上から最短距離で振り下ろすスイングが一番「遅い」し、スイングに時間がかかる。直感とは逆で、「最短距離が一番早い」わけではない。おまけに人間の身体の構造を無視しているので、身体に余計な負担がかかる(特に、腰や手首)

 

●「バットをボールの軌道に入れる打ち方」だと打てる理由

①ミートポイントの前後の幅が広くなるので、速いストレートにも遅い球にも合う。

②ボールとバットが「正面衝突=真っ正面からまともにぶつかる」ので、打球速度が上がり良い当たりのライナーが増え、長打も増える。ゴロにしても、内野手のエラー率が高くなる、トップスピンの球足が速いゴロになる

③ボールとバットが正面衝突するので、打球速度が上がりライナーが増える


④バットをボールの軌道に入れるスイングだと、「ボールの衝撃に強い姿勢」ができるので、非力な選手であってもストレートに負けない。小柄な選手でも、強豪校の剛速球投手のストレートをスタンドに放り込める

 

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⑤「バットをボールの軌道に入れるスイング」こそが、人間の身体の構造上、バットを一番楽に強く素早く振れる形である

 

●では、なぜ「上から最短距離で叩け」と言われているのか?

 自分の意識と実際の動きがズレているから。「上から最短距離で叩く」と言っている人も、実際の動きを見ると決して最短距離では出していない。

 上から最短距離で…というのはあくまでも感覚の話で、実際の動きを見るとバットのヘッドはきちんとボールの軌道に入って行っている。

 だからといって、初めから「上から最短距離で叩く」意識でスイングしていると、いつまで経っても打球は飛ぶようにならない

 イメージ先行で考えているから、というのもある。「上から最短距離で」だと、なんとなく簡単に打てそうな気がする。気がするというだけで、実際はその動きに忠実に従えば従うほど打球は飛ばなくなり、ストレートに弱くなる

 

 

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●「バットをボールの軌道に入れるスイング」を習得するための表現

<表現>
・右打者と左打者とでは、身体の左右差の関係でスイング軌道が若干違う

・右打者のイメージ:「いかに右半身を入れ込んだ(タイヤ打ちのような)形でインパクトを迎えることができるか」が命。「バットを身体の近くに置いた状態で構え、上半身をホーム側に前傾させながら(=潜り込むように)、ステップする。振り出したらさっさと左肘を抜いてどかし、空いたスペース位に右半身を入れ込む。身体の回転ごと斜め上45度くらいに向けてやるイメージでカチ上げる」。

 

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 右打者は「肩の回転方向が斜め上45°に向かうくらいカチ上げる=月に向かって打つ」イメージだとだいたい上手くいく。左肘は伸ばしたままだと邪魔なので抜いてやる(日本式だと脇を締めなさいと言われるが、抜いたほうが良い)。引き手側の脇を極端に空けて、できたスペースに押し手側の半身をねじ込むイメージ。こちらのほうが体がスムーズに回転しやすい。とにかくこの形を作ればどんな剛速球投手のストレートでも放り込める

 


 左打者のイメージ:「バットを身体の近くに置いた状態で構え、上半身をホームベース側に前傾させながらやや腰を引くようにステップする。ポイントを後ろ気味に置き、バットをかなりタテに使って、とてつもなくカチ上げる」。左打者は右打者ほど引き手側の脇を空けない(∵一塁側へ重心移動させながら対処できるため)ので、そのぶんだけ体の回転のスムーズさが重要になる。

 

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●練習メニューの組み方~長打力・確実性両立のための戦略~


 練習を期分けする。
A.「軌道習得・リミッター解除フェーズ」→B.「対応力向上フェーズ」→C.「総合力向上フェーズ」
に分ける。

「ほかの学校が一日1000本振るなら、おれたちは2000本だ」などといって無目的に数をこなす練習をしているチームが多い! そのやり方ではケガも増えるし苦しい。理に適ったアプローチをすれば、ケガも少なく、どんどん飛距離が伸びていくので楽しい。

 


 簡単に紹介すると、

A「軌道習得・リミッター解除フェーズ」で「ボールとバットの軌道が一致するスイング」を覚えた上で「100%の出力のスイング」を学習する。これでまず単純にボールを遠くに飛ばせるようになる。

B「対応力向上フェーズ」で「80%の出力に落として、その分確実性を高めること」と「各コース別の対応」を習得する。これで実戦での確実性が上がる。

さらに、それで満足せず、C「総合力向上フェーズ」でバッティングの「総合力の向上」を続けていく。個人個人の総合力が上がれば上がるほどチームとしての得点力は増す。

 


 各ドリルは「インプット系」と「アウトプット系」に分ける。
 インプットは「低負荷・高回数で動きを体に覚えさせるためにやる」もの、アウトプットは「高負荷・低~中回数で、主に、覚えた動きが実戦で出るように仕上げるためにやる」もの
 上達スピードを上げるためにも、ケガのリスクを最小限に抑えるためにも、インプットとアウトプットは分けたほうが良い。

 


A.「軌道習得・リミッター解除フェーズ」


フェーズAでやることは2つ。

A-1.まずは軌道に入れるスイングを覚える(軌道習得)。「軌道に入れるスイング」だと体に負担が少なくケガしにくい

A-2.そのスイングで100%の出力を出すことを覚える(リミッター解除)

 つまり、「A-1期:軌道習得メイン」「A-2期:リミッター解除メイン」である。

 


 そのため、フェーズの前半(A-1)では低負荷・低出力・高回数のインプット系を多めに行い、「軌道に入れるスイング」をまず最優先で覚える。表現を変えると、「軽く振っても飛ぶ」「身体に力を入れなくても飛ぶ」スイングをまず覚える。

 フェーズの後半(A-2)では高負荷・高出力・低ー中回数のアウトプット系を多めに行い、その「軽く振っても飛ぶスイングで、100%出力する」ことを覚える。

 


 このA期間の目的は

「<軌道に入れるスイング>で、<100%の出力>が出せるようになる」

こと。これができれば、「今持っている自分の身体での飛距離の限界」を出せる。

 


B.「対応力向上フェーズ」


 リミッター解除フェーズを十分に完了できると、「軌道に入れるスイングで100%振れる」ようにはなっているが、2つ弱点が残る。

 


①まだ自分の一番打ちやすいコース以外の対応は覚えていないので粗っぽい

②ややオーバースイング気味になっており、確実性向上の余地がある。試合の投手のボールは、軌道に入れるスイングさえできていれば100%で思い切り振らなくてもスタンドには放り込める。試合への対応ということを考えると、「100%のスイングでマン振りし、0か100かで130mの飛距離を狙う」よりも、「8割の力感で確実性を確保し、コンスタントにスタンド前列に放り込む」ほうが良い

 


 というわけで、「対応力向上フェーズ」では、以下の2つを中心に据える。

①のために→各コース・各高さへの対応を徹底的に覚える。
②のために→軌道に入れたスイングのまま、「8割の力感でコンスタントにスタンド最前列に放り込めるようになること」を重視する。

 具体的に言うと、インプットとアウトプットを半々くらいでやっていくようにする。画像・表の通り、フェーズBのインプットは「各コース・高さへの対応系ドリル」であり、アウトプットは「インプットでやったことを踏まえつつ、8割の力感でスタンド最前列に放り込めるように演習を積む」である。

 


C.「総合力向上フェーズ」

 

 さて、Aでは「軌道に入れたスイングで100%の出力」を目指した。これで「バッティングの基礎を作った」と言える。

 Bは「Input:軌道に入れたスイングでの、各コース各高さへの対応を覚える」「Output:Inputでやったことを踏まえて、8割の力感で再現性高く打ち返せるように演習を積む」という形で、<実戦に対応する>ための準備をした。

 要するにここまでは、

「A:10割を出す→ B:あえて出力を8割くらいまで落として、試合で使える形に仕上げていく」

という意図があった。

 


さて、フェーズAとフェーズBが一通り済めば、あとは何が残っているかといえば…「試合で最高の結果を出すための最終調整」になる。

1.「実戦経験・試合勘・真剣勝負の経験値」の蓄積
…とにかく「なるべく良い投手と、なるべくたくさん真剣勝負」する。良い投手と対戦する機会が多ければ多いほど、良い投手を打たねばならないというプレッシャーに晒されるので、進化速度が上がる。

2.フィジカルを試合向けに最適化する(パワー・プライオ・RFDなどの神経系や、コンディショニング・テーパリングなどの体調系)
…「本番で、100持っている力をきちんと100出し切る」ためには、大事な試合に向けて身体も最適化しておくことが必要だろう。試合前の追い込みなどもってのほかである。野球の競技特性(爆発的パワー発揮の繰り返し)に合った形で仕上げること。

3.レベルの高い投手からコンスタントに打てるように、動作の無駄を省く
…動作をよりシンプルにしていき、再現性と確実性と対応力を高める。動作の無駄を省くたびに0.0数秒のロスが削られていき、「ここを超えると好投手からでも普通に打てるようになる」というラインをいずれは超えるようになる。この3つだろう。

 


 なお、フェーズCのInputとOutputについて。

 Outputについては、やはり実戦メインにする。スイングの出力が弱いなと思ったら置きロングティーなどで元に戻す。

 Inputはコース別対応ドリルを中心に。体力を消費しない軌道定着系を同時にやっても良い。

 比率としてはややOutputが多めになるだろう。ただし、そのときの調子や状況に応じて柔軟に計画を変更していくことになる。

 

 

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 A~C各フェーズでのメニュー例も紹介しておく。これはあくまでも一例であって、練習時間やチーム状況などは各校で異なるだろうから、柔軟に対応してほしい。

 

 

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6/14追記:フェーズAの合格点は「置きロングティーの飛距離が、木製で90-100メートル、金属で100-110メートル」に達したあたり。フェーズBは「実戦(対外試合)でも反射的・無意識に各コースに適切な対応ができるようになってきた」あたりまでとすると良いだろう。

6/15追記:

【シーズン中】各フェーズ0.5~1か月くらいごとに時期を区切って「A→B→C→大事な試合→A→B→C→大事な試合」とピリオダイズするのが推奨される。この場合、Aで「軌道に入れるスイング」を100%習得しきれなかったとしてもさっさと次に進むようにする。たとえば、一度目の「A」をやった結果「軌道は習得しきれなかったが、100%の出力で振れるようにはなった」場合、迷わずBに進む。ずっとAフェーズで留まり続けるよりも、A、B、Cのサイクルを繰り返していくうちに自然と軌道が改善されてくるのを待つべきだし、最優先は「大事な試合で最高の結果を出すこと」だからである。

【オフシーズン】は「軌道習得・各コース別対応・フィジカル強化」に注力すると良いだろう。試合のないシーズンオフには基礎的なところを徹底的に伸ばしていくべきである。

6/16追記:このA-Cサイクルを回していく方式の何が優れているかといえば、第一に「打撃の総合力が最高効率で伸ばせる」のである。

 つまり、「A→B→C→試合→A→B→C→試合→オフシーズンではフィジカル強化・コース別対応の定着・軌道の完全定着などを行い、一回り大きくなる」という形でA-Cサイクルを繰り返していくことで、効率よく打者としての実力を伸ばしていける。

 繰り返すが、A-Cサイクルは「脳への刺激をこまめに変えることでマンネリ化を防ぐ」のである。また、A-Cサイクルには「試合に向けて順調に仕上げていける」というメリットもある。

 


●各練習メニューの説明(目次)


●アウトプット編
・置きロングティ
・正面ティー
・コース別置きロングティ

●インプット編
・カチ上げティー(短めのノックバットでテニスボールをカチ上げるor普通のバットで普通のボールをカチ上げる)
・正対打ち
・三連ティー
・トップハンドタイヤ打ち
・裏返し素振り
・肩の角度合わせ踏み込み
・高め連ティー
・低めゴルフティー
・インハイ素振り
・トップハンド・アウトコースタイヤ打ち
・フリスビー投げ
・クイック打ち分けティー

 

 

●各練習メニューの説明●

 

●置きロングティー:まずはこれからスタート!
 まず最初に「置きロングティー」をやる。「静止したボールを思いっきり打ってどこまで遠く飛ばせるか?」をまず測る。これでスイングの実力がもろにわかる。

 金属バットなら、「軌道に入れるスイング」ができていれば、体格に恵まれなくても「置きロングティー初打ち」で最低90-100メートルは飛ばせるはず。木製なら80-90メートルは最低ライン。
 そこまで行かないのなら、①軌道に入れるスイングができていない ②出力不足(フル出力のスイングができていない) ③根本的なフィジカル不足(体があまりにも貧相) のどれか。たいていは①と②である。高校一年生であれば③もあり得るが、それでも金属バットで軌道に入れるスイングをすれば外野定位置後ろあたりまで飛ばせるはずだ。

 上から叩くスイング・弱いスイングじゃ置きロングティーは飛ばない! 軌道に入れる&高い出力のスイングを習得しないと絶対に飛ぶようにはならないのが置きロングティー。

 

 

●なぜ置きロングティーを一番最初にやるべきか? → バッティングの「基準」が設定できるから

 

 

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 置きロングティーで、まずは「自分にとって一番飛ばせるコース・高さ」を掴む。各選手ごとにそういうコースがどこかにある。「一番骨盤がスムーズに回って、一番肩も回って、一番バットのヘッドスピードも出る」…というコースがある。
 そのポイントを基準にしてバッティングを考えるとシンプルになる。

 たとえば打席の立ち位置。「自分にとって一番飛ばせるコース」を「ベースのど真ん中~ほんの少し外角寄り」に置くのが基本だと考える。なぜなら、そこを中心に設定すれば、「一番飛ばせるコースに近いコース・高さ」がストライクゾーン内に多く設定できるから。

 「自分にとって一番飛ばせるコース」を「外角いっぱい」に置いてしまう=ベースに近づきすぎる と、内角の処理に苦しむし外角の逃げていくボール球に手を出しやすくなる。逆に、「内角いっぱい」に置いてしまう=ベースから遠すぎると、外角に届かなくなる。「ベースのど真ん中~ほんの少し外角寄り」に自分の一番飛ばせるポイントをセットするように立ち位置を設定するのが良い。

 


 また、「静止しているボールをスタンドまで運べるスイングの力」があれば、実際の試合でピッチャーが投げてくるボールは軽く振っても放り込める。試合のボールに試合のバットに試合の投手…なのだから、「芯に当たれば軽く振っても飛ぶ」のである。置きロングティーでの飛距離を伸ばしておくと、試合の打席では余裕を持ってスイングできる。

 


 置きロングティーをやると「軌道に入れるスイングの大切さ」がよくわかるし、「上から最短距離でコンパクトに叩くスイングの不合理さ」もよくわかるし、「いかに普段自分がぬるいスイングをしているか」もよくわかるし、「一番打球が飛ぶ角度が体感的にどれだけ高いか(※かなり高い。ここまで高いのかというくらい高い)」もよくわかるし、「フィジカルの強さがどれだけ大切か」もよくわかる。
 逆に、こういったことは、置きロングティーをやらない限りいつまで経ってもわからない!

 だからこそ、「置きロングティーを一番最初にやりなさい!」と言っているのである。

 


※置きティーがない場合:「ネトロンティー」がおすすめ。

タナーティーは一本13000円、普通の置きティーも3000円くらいはする。ネトロンとはスキー場のゲレンデに刺さってるあの棒のこと。Amazonで1本160円で購入できるし、ホームセンターや大きめのスポーツショップにも置いてある。ネトロンをペットボトルのふた部分に刺すだけでとても打感の良い置きティーが作れる。ハサミで切れば長さ調節も可能。2000円出してネトロンを10本購入すれば「低め5本・真ん中5本・高め5本」置きティーを作れる。チーム単位でやるならタナーティーよりもはるかに安上がり

 

 

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●正面ティー
 これも重要な練習。フルスイングはせず、「8割くらいの力感で軌道に入れて良い当たりを打ち返す」ことを覚える。投手方向から来るボールを打つことに慣れる。

 トスは「ちょうどバッターの手元でピッチャーのストレートと同じような角度(5-10°ほど下向き)になるくらい」で投げる。緩い球を混ぜる、速い球を投げる、コースを投げ分ける、角度をつけて左投手を想定する、などバリエーション豊かに行うことができる

 

 

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Baseball Performance Center on Instagram: “Can you go down and drive the low ball? If you can’t you need to work on it. Most pitchers are taught to pound low in the zone, so expect…”

 


●コース別置きロングティ

・置きロングティーをコース別に行う。基本的に「飛ばせる打ち方≒投手のボールに対して速い打球速度を与えることができる打ち方」なので、可能な限りロングティー方式が望ましい。自分の一番好きなコースを飛ばせるようになってから取り組むこと。

 


●カチ上げティー(短めのノックバットでテニスボールをカチ上げるor普通のバットで普通のボールをカチ上げる)

★「ボールの軌道に入れるスイング」を習得するために超重要な種目。これをやり続けるのが一番早い。毎日やること!

 短めのノックバットを使うと良い。70-85cm程度。90cm程度の長いノックバットだと長さでごまかしがきいてしまう(多少変な身体の使い方でもヘッドスピードが出る)ため。テニスボールをノックバットで打つのが良い。

「軽いボールを、軽いバットで打つ」の何が良いかというと、
①「軌道に入っているスイング」じゃないとボールは思ったように飛んでくれない。軽いバットで軽いボールを打つのだから、力の加わった方向にボールが飛んでいく。
②軌道に入っているスイングができると、振り抜け感がとても良い。一発で「これだ!」とわかる。
③身体への負担が少ない。

 小手先だけで打球を上げないこと! 手首を返してチョコンと打球を上げるのは誰でもできる。

 

 コツ:「肩の回転する方向・体の回転する方向・バットが加速していく面」を「ピッチャー側の斜め上45度」に向ける。そこにしか打球が行きようがないくらい角度を付けてカチ上げる。「ボトムハンドの肘を抜いてできたスペースに、捕手側の半身をねじ込む」イメージ。

 バットは、振り出すときには「身体の近く」(グリップが耳の近く当たりに)に置いておくこと。身体から離し過ぎると遠回りになりがち。このくらい近くに置いておく。シンプルに、身体の近くに置いたバットを身体の回転で振るだけというイメージで考える。

 ひたすらカチ上げまくっていると、逆に<スムーズにバットが出るようになる打ち方がある>ことに気付く。これがわかると、「なーんだ、上から最短距離で叩くよりも、カチ上げたほうが早くバットが出せるんじゃん」ということが体感でわかる。ここを目指す。ここさえつかんでしまえばあとは早い。カチ上げティーの目的は、これを掴むこと。

 力感について。カチ上げティーは「ややゆったりめに振って、カチ上げる」こと。低出力でやっている限りは身体に優しいメニューである。

 テニスボールであれ硬球であれ、「こすって打球を上げる」ことがないように。きちんと「パコーン!」という感じで打つこと。「ボールというものは力を加えた方向に飛んでいく」というのを実感する。

 


 「重くて硬いボールを長くて重いバットで打って目の前のネットに入れる」だけだと、あまり振れていなくてもごまかしが利いてしまう。なぜなら、多少こすっても打球が目の前のネットに入るので「打球が実は弱い&飛距離が出ていなくても、強い当たりを打っているように錯覚する」から。

 バットがボールの軌道に入るような打ち方じゃなくても、手先でこねくり回して打つような打ち方でも、なんとなく振れている気がしてしまう。これが「重くて硬いボールを、長くて重いバットで打つ」際の注意点。だから、ネットに向かって打つときには常に「自分の当たりの飛距離・打球速度が果たしてどれくらい出ているか」を気にしないといけない。

 軽くて柔らかいボールを短め&軽いバットで打つとごまかしが利かないのでその点で都合が良い。ボールは力を加えた方向にしか飛んでいかない(こするということがない)し、バットの軌道が悪いと打っていても気持ち良くないから。

 


参考動画

 

この方のインスタは非常に参考になるのでフォロー推奨!

 


●正対打ち

 極端なオープンステップでスイングすることによって、軌道に入れるスイングの感覚を覚える。特に左打者には効果が高い。
 置きティーでも手投げティーでも可。
 極端なオープンスタンスで構える。右打者の場合、両つま先をセカンド方向に向けるくらい。
 ミートポイントは近めに置く。打球方向は流し。
 肩のラインと目線を振りたい角度まできちんと傾けてから振り出す。

 

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参考動画

 

Baseball Performance Center on Instagram: “Sam Daggers going through his daily routine at the plate. Are you swinging or are you working? Have a goal. Go after it. #BPC #WagnerCommit…”

 

 

●三連ティー
 目的は「上から叩く最短距離のスイングを忘れる」こと。その代わりに「バットを軌道に入れるスイング」を習得する。

 

 

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参考動画

 

Baseball Performance Center on Instagram: “Garrett going through the 3 tee drill. This drill keeps you honest with your swing. Be able to hit each ball without dragging and hitting…”

 

 

●トップハンドタイヤ打ち

 バットをトップハンド(押し手)一本で持つ。「ボトムハンドの肘を抜いて、トップハンド側の半身(右打者の場合右半身)をぶち込む」ことを覚える。そうすると勝手に軌道に入るスイングにもなる。
 「ストレートに負けない姿勢」を徹底的に覚え込ませる。「力を抜いて気持ち良く打てる(衝撃が少ない)」のが良い。あまり強くやりすぎないこと
 コツは「ボトムハンドの肘を抜いてできたスペースに右半身を入れ込む」「骨盤を投手に正対させた状態でインパクトを迎える」こと

 

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参考動画

 

Stance Doctor- Steve on Instagram: “Rear arm (top hand) swings NO CHOKING UP. Can’t do it if you are all arms / hands during the swing. Forces hitter to use body!! Give it a…”

 


●裏返し素振り

 普通に構えたところから、バットの裏側を投手に見せるような軌道で振る。バットはインパクト直後あたりでストップさせる。

 

 

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 コツは「ヘッドを落とすように」振ること。

 ヘッドを落とすとバットが遠回りしないかと不安になるかもしれないが、強打者のスイング軌道を見てみると明らかに「グリップはだいたい最短距離(体感的にはほぼ最短距離)で出るが、ヘッドは大きな弧を描きながらボールの軌道に対してまっすぐ入る」ように振っている。つまり、バット全体としてはやや弧を描きながらインパクトに向かうこととなる。

 よく「ヘッドを立てて…」と言われるが、それは感覚上の話であって、実際にヘッドを立たせながらスイングすることはないのである。バットのヘッドは大きな弧を描くというのがバッティングの本当の基本だ。

動画:

 

 

@yas.risounodageki on Instagram: “ナイスアプローチ。”

 

 

●肩の角度合わせ踏み込み

 上半身を前傾させながら踏み込む。目安としては、「肩の回転面の角度が、自分が一番飛ばしやすいポイントと90度をなす」あたりまで。なお、下半身も適度に曲げるようにする。


 「上半身を前傾させながら、投手側の肩甲骨をグッと背骨から遠ざける&振り出しに間に合うように捕手側の肘に勢いを付けておく」「下半身もパワーポジションまで曲げておく」ことを学習する。これができると雰囲気のある見逃し方ができるようになる。

 

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●高め連ティー

 

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 高めの打ち方を学習する。後述の「コース別対応の原則」を参照。高めは「しっかりスイングする」ほど当たらなくなる。スイングするというよりは、肩を回した先にたまたまボールが来る感じ。あとは打球に勝手に良い角度が付いてくれる。力を抜いて振る。
 一球ごとにしっかり下半身と肩を回しきること!
 テンポは「一球一球きっちり下半身と肩を回しきれるペース」で行う。早すぎると意味がなくなるので注意。
 「疲れさせること」が目的ではないし、「振る数をこなしてスイング力をつける(?)」ためでもない! 高めの打ち方を覚えることが目的。

 

 

●低めゴルフティー
「膝の高さ」を打つ。「すねの高さ」も打つ。半々くらい。
 すねの高さの場合は「500mlペットボトルを半分に切ったものにボールを置く」でもよい。
 低めのボールをしっかりと打ち返す(拾うのではなく)練習。
 右打者なら、「肩のラインをホームベース側にかなり傾けて(→肩の回転面の延長線上にバットは出ていくので、肩の回転面を先に低めに向ける)、右半身をねじ込む」ようにして打つ。ゴルフのように打つ
 目線も思いっきり傾ける。
 低めのボールをホームラン(とはいかなくてもヒットや長打)にされると投手は本格的に投げるボールがなくなる

 

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MLB on Twitter: ".@MikeTrout officially leads the world in homers.… "

 

 

 

●インハイ素振り

 

 

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 こんなイメージ。
「ボトムハンドの肘を最優先で抜きながら」「(右打者の場合)右の上半身を素早くボールに向けてやる」感じ。スイングスピードは出なくても良い。芯に当たれば良い角度で飛んでいく。
 ネットに近付いて振ってみるのも○。

 

 

●トップハンド・アウトコースタイヤ打ち

「タイヤ打ち」をアウトコースでやる。
 右半身をガッツリ入れきって骨盤をきっちり回したら、あとはバットが勝手に伸びていくのを待つだけ。
 感覚的には「アウトコース=近い」感じ。身体をきっちり回してバットが伸びるのを待つ方式だとアウトコースは近く感じる
 ミートポイントは思ったより前。前足のかかとあたり。

 

 

●フリスビー投げ

 フリスビーをトップハンド一本or両手で投げる。センター方向に。手で投げるのではなく、素早い身体の回転の結果投げられる。
 トップハンド一本の場合、バットと同じように手のひらを自分に向けてフリスビーの上部を持つ。できるだけ素早く投げることによって、身体の回転を極限まで素早く行うことを覚える。

 もちろん、速球対策にもなる。フリスビーを高速で投げることを繰り返していると身体の回転が素早く行えるようになるため、速球にも間に合うようになる。

トップハンドバージョン:Big League Prep Frisbee Hitting Drill - YouTube

両手バージョン:

The Frisbee Hitting Drill - YouTube

 


●クイック打ち分けティー

 

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 三連ティーの形で、インハイ・真ん中・アウトコース低めにボールを置く。「イン!」と言われたらインコースを「できる限り素早く、でもしっかりと」、「アウト!」と言われたらアウトコースを「できるだけ素早く、でもしっかりと」打つ。
「できる限り素早く、でもしっかりと」、この2つを両立させるコツは「肩の回転面をホームベース側にあらかじめ傾けておいて、バットをすぐ振り出せる位置に置いておくこと」である。
 合理的なスイング軌道を覚えること、投手のタイミングずらしに対応することと、スイングの無駄を削ること、そして0→100の加速力を養う。試合直前には特に有効である。

 

動画:

@yas.risounodageki on Instagram: “バッティングにも『クイック』 があります。 イン!アウト! 反射的に反応する。”

 


●コース別対応の原則:各コース・高さに対して高い打球速度を与える方法

 

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 原則的に、「各コース・各高さを上手く打てる=各コース・各高さに高い打球速度を与えること」と考える。そのために必要な奥義は、「トップハンド側の半身をきっちりとボールに向けること」である。↑の画像はそのための方法論で、これを無意識レベルで染み込ませる。

 つまり、先ほどから何度か紹介している「右打者なら右半身をガッツリ入れ込んだ形=タイヤ打ちをトップハンド一本で行うときの形」である。これを作れば打球速度は高くなる。

 

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●金属バットの特性
 打球速度が高い。そのため、木製に比べて15-20mほど飛距離が出る。芯が広く折れないので、多少詰まっても内野の頭を越える。
 バット自体は重たい(900g以上)が、重心が木製よりも手元寄りにあり、芯も手元寄りにあるため、木製よりも振りやすい。なお、重心位置を確かめるには「バットを親指と人差し指でつまんで持ったときに釣り合う点」と考えると良い。

 

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「木製よりもバットの重心が手元寄りにある」というのがポイント。このマニュアルの中で何度か「バットの重心を~」という表現が出てきている。

「振り出しの瞬間にバットの重心を背骨の延長線上に置くこと」や「バットの重心を身体からあまり離さないこと」など。金属では木製よりも重心が手元寄りにあるのだから、そこを考慮する必要がある。

 木製バットと金属バットとでは最適なフォームが若干異なるのである。

 

 

 

●打撃の対応力を上げるためのチェックポイント
…ここでは、「バッティングの再現性を上げるためのチェックポイント」を紹介する。自分のフォーム・自分のチームの選手たちのフォームチェックに使ってほしい。特に「C.総合力向上フェーズ」ではこのチェックポイントが頼りになるはずである。


1.バットは身体の近く・耳のそばで扱う。特に、構え~振り出しまで、バットの重心をなるべく身体から遠くに離さないようにする。

 

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 最近のメジャーリーガーたちのスイングを見ていると、基本的にバットを身体の近くで扱っていることがわかるだろう。これには「バットを支える腕の筋肉の疲労を最小限にしつつ、身体の回転軸と近いところでバットを扱うことによって、再現性を上げる」という効果がある。

 メジャーリーガーは体重90-100kgというのが当たり前だし、上半身の筋力・筋量も凄まじい。さらに最近はバット自体も軽量化が進んでいる。それでもなお、彼らは身体の近くでバットを扱うのである。

 日本の、特にアマチュア打者だと「バットを身体から遠くに離す」「バットをやけに高く構える」打者が多いが、再現性も対応力も犠牲になっているということに気付いてほしい。

 


2.前足の踵が接地する瞬間に、バットの重心が「背骨(回転軸)の延長線上」くらいにあると、引き手を使ってスムーズに振り出せる

 

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 これは「振り出しの時の回転半径を小さくする」工夫である。画像の中に黄色で示されている線は背骨(上半身の回転軸となる)であるが、「回転軸=背骨の延長線上にバットの重心を置いておく」ことで、「回転半径」が小さくなり、振り出しがスムーズになる。

 回転半径が大きい → 腕をめいっぱい広げた状態で回転する

 回転半径が小さい → 腕を胸につけて畳んだ状態で回転する

 というわけで、回転半径が大きいほうが回転は鈍くなり、回転半径が小さいほど回転は素早くなる。これはバッティングでも同様である。振り出しに時間がかかっていては差し込まれてしまう。だから、振り出しの時には回転半径を小さくして、回転を素早く行えるようにしておく必要がある。

 振り出す瞬間に回転軸の延長線上からバットの重心が離れすぎていると、回転半径が大きくなり、振り出しの回転が鈍くなる。それを補うだけの上半身の筋力があるor投手のレベルが低いならば強引に打てるかもしれないが(後でそういう例を少し紹介する)、学童や中学生や高校生の身体や、レベルの高い投手相手では厳しいだろう。

 繰り返して言うが、

「回転軸=背骨の延長線上にバットの重心を置いておく」ことで、「回転半径」が小さくなり、振り出しがスムーズになる

のである。

 

 

 

※ちょっと脱線。メジャーリーグで最近、「バットをやや立たせたところからトップハンドの入れ込みの力とボトムハンドの引きの力とを強力に使って一気にヘッドスピードをMAXまで持っていく」打者が増えていると感じる。典型例はグレーバー・トーレス選手やゴールドシュミット選手、ホセ・バティスタ選手、コンフォルト選手、ギャティス選手など。メジャーリーグの野球に詳しいお股ニキ氏も指摘しておられた。

 
 
 
 
 ボトムハンドで柔らかくリードしていくのではなく、一気にマックスまで持っていく。

 近年はメジャーの投手の平均球速が上がり、かつ打者の側のフィジカルのレベルも極限にまで達している。

 


 そのため、従来のように

「ボトムハンドの脇を大きく空けてバットをリードしていく」

のではなく、

「ボトムハンドを締め気味にして一気にバットのヘッドスピードをマックスまで持っていく(ボトムハンドの肘が伸びるとバットのグリップは減速し、ヘッドは加速する)」打ち方のほうがかえって理に適うようになっているのではないかと思う。

 


 彼らの共通点としては、

①振り出し時点であえてバットをやや立たせ気味にする(こちらのほうが、関節角度の関係上、上半身の筋力を使いやすい。バットを寝かせ気味に振り出す場合と比べてみると良い。特にトップハンド側の大胸筋・上腕二頭筋の筋力が効果的に使える)

②「押し手側の肩」を思いっきりホームベース側に下げるようにして振り出す

③ボトムハンドの脇を締め気味にしながらバットを引っ張り出す(メジャーリーグの打者は、普通ボトムハンドの脇を空け気味に打つ)

 このあたりだろう。

 


 アメリカでは現在論争になっているようで、「barrel push型 vs barrel turn型」のどっちが良いか、ということが議論されているようだ。

※barrel push型…上記で紹介している打ち方のこと
※barrel turn型…柔らかくボトムハンドでリードし、バットをひっくり返すように使う打ち方。ミゲルカブレラ選手やマイクトラウト選手やフレディフリーマン選手やクリスデービス選手やバリーボンズ選手やJDマルティネス選手などが該当
 barrel push型の打ち方は、確かにそれほどきれいな打ち方ではないが、野球は打ち方のきれいさを競うスポーツではない。投手のボールをよりコンスタントに打てるほうが勝ちなのである。

 


 ただし、こちらのbarrel push型の打ち方には、もちろんそれ相応の上半身の筋力が必要だろう。ひょっとするとbarrel push型のほうが振りやすいのではないか…と思って筆者も色々と試してみたが、どうもbarrel push型は上半身の全体的な筋力が必要不可欠なようだ、という結論に至った。

 つまり、「振り出しの時の慣性モーメントが大きくなる」というデメリットを超越できるだけの上半身の筋力さえあれば良い。180cm後半で90-100kgの体重があるMLBの打者ならそれをやってのけるのだろう。

 

 


3.上半身がホームベース側に前傾する角度は、「構えの時点<振り出しの瞬間」である。つまり、構えの時点よりも振り出す瞬間のほうが上半身はホームベース側に傾いている。

 

…上半身を前傾させながら踏み込む。目安としては、「肩の回転面の角度が、自分が一番飛ばしやすいポイントと90°をなす」あたりまで前傾させながら踏み込む

 


4.「肩を水平に捻ってバットを引いてトップを作る」のではなく、「肩甲骨を使ってバットを引く」「肩のラインを斜め45度に傾ける」

 


5.腕の筋肉にうまく「タメ」を作るためには、「手と足を反対の方向へ動かす」ようにする。いわゆるヒッチ。このとき、バットの重心を身体から離しすぎないほうが好都合

 

6.助走と回転

 

・軸足股関節が鋭く深く内旋している(下の画像参照)

 

インパクト時に骨盤が投手に正対している。右半身がしっかりと「入って」いる(右打者の場合)

・両肩が回転するラインがホームベース側に傾いていて、バットは両肩が回転するラインの延長線上にある(センター方向からチェックするのが○)

・前足裏ーへそ付近ー頭部が一直線に並ぶ(ステイバックができている)

・左肘をきちんと抜いている(右打者の場合)

 

 

 

●迷ったら、「バッティングの原則」に立ち戻る!
以下は、バッティングの基本文法ともいうべきもの。強打者になればなるほど、バッティングがシンプルになる。「よりシンプルに」「より再現性が高く」「より平行に」「より90度に近く」なる。

「重心移動(並進運動)とは、回転運動のための助走である」
「助走の距離と時間を長くなると打球は飛ぶが、同時に確実性も低くなる」
「助走の距離と時間が短くなると打球の飛距離は落ちるが、確実性は上がる」
「フィジカル=筋力・筋肉量・パワー が大きければ、助走=重心移動の距離と時間を短くしても打球を同じだけ飛ばすことができる」
「骨盤を回転させたい方向に向かって、ヨコ向きに助走を付ける」
「骨盤が本格的に回転を始めるタイミングは、前足の踵が付いた後である」
「骨盤を回転させるメインエネルギーは、<重心移動=助走>からの、<軸足股関節の内旋>からの、<前足膝の伸展>である」
「骨盤が回転すると、骨盤の上に付いている背骨が回転する」
「背骨が回転すると、両肩のラインも回転する」
「背骨=上半身の回転軸と肩の回転面が成す角度が約90度になるのが、物理的に自然な形である」
「背骨=上半身の回転軸とバットの軌道をつなぐのは、<前肩甲骨ー前手までの、引き手のリードライン>である」
「振り出す瞬間、背骨=上半身の回転軸の延長線上にバットの重心があるのが、物理的に効率の良い形である。そこからバットは寝て、肩の回転面と一致しながら振り出される」
「スイング時は肩の回転面とバットの軌道が一致するのが、人体の構造的に自然な形である」
「背骨=上半身の回転軸とバットの軌道が成す角度が約90度なのが、物理的に自然な形である」
「骨盤の回転面とバットの軌道が成す角度が約90度なのが、物理的に自然な形である」
「目線のラインは、肩の回転面と平行であるのが確実性向上のために望ましい」
「肩の回転面の延長線上にボールが来るように、肩の回転面を調整する」
「肩の回転面の向きを調整できるのは、<前足を上げて、前足のかかとがつくあたりまで>である」
「ボールが来たところに対して肩の回転面の向きを合わせればよい→高め低めにはこれで対応する」
「肩の回転面をボールの来たところに向けたら、あとは前肘をどの程度伸ばすか抜くかでイン・アウトに対応する」
「<押し手側の半身>の使い方は、右打者の場合<左肘を抜いてできたスペースにねじ込む>である。そのときの形は、押し手一本でバットを持ってタイヤ打ちするときのような形である」
「どのコースでも、どの高さでも、<トップハンド側の半身>をガッチリ入れ込めば打球は飛ぶ」

 

…総じて言えば、「強打者ほどスイングそのものはシンプルになっていく」のである。これを肝に銘じておけば、対応力・再現性を上げることは比較的簡単だろう。

 

 

 

●最後に、バッティングで悩んでいる打者にアドバイスを1点だけ

 

「迷ったら、カチ上げればだいたいなんとかなる」!


 色々な打者の相談に乗ってきた結果、「カチ上げればだいたい解決する」ということがわかった。カチ上げ方を間違えている(身体の回転ごとカチ上げ方向に向けるのである)か、臆してしまってカチ上げ方が足りない場合にだけ注意。カチ上げ=正義である、というよりは、「人体にとって一番自然な形で振ろうとしたら、必然的にカチ上げるような形になる」


 迷ったら、とりあえずカチ上げてみよう。

 そうしたら、だいたい上手くいく。なぜなら、「自然の法則」が味方してくれるからである。「月に向かって打てばいい」のである。

 

 

 

 


 
この